街の笛   久永実木彦


ぴーひゅるるるる。
ぴーひょろろろろ。

街に響く笛の音。

高架がまたいだ道路から、
ビルとビルのあいだから、
ちいさな路地の向こうから。

風は自由を取り戻したように
誰もいない通りを吹いて、気ままな音色を奏でてる。

地上に出たらいけませんって
お父さんはいうけれど、わたしは街の音が好き。

しばらくしたらシェルターに帰ろう。
夕日のころに、笛は落ち着く。

ぴーひゅるるるる。
ぴーひょろろろろ。

わたしのからだに風が吹く。
地上に出たらいけません。

ぴーひゅるるるる。
ぴーひょろろろろ。





久永実木彦
小説家。『七十四秒の旋律と孤独』にて第8回創元SF短編賞を受賞。岡田奈々オタク。

人間のいなくなった街は、きっと楽器になるのでしょう。